すな粉妄想日記

「ただいま」

「おかえり、兄さん」

トールは家に着くと、
居間のテーブルに荷物を置いた。

それを見た弟が尋ねる。

「本屋に寄って来たのか？」

「ああ。お前が読みたがってた本も
買って来たぞ」

ユーゴの顔がたちまち綻ぶ。

「ありがとう…読んでもいい？」

「いいぞ。俺は着替えてくる」

ネクタイを緩めながら、
兄は居間を出て行った。

ユーゴは嬉しそうに
紙袋を手に取った。

テープを剥がすと、
丁寧に中身を取り出す。

その表紙を見た瞬間。

「！！？？？」

ユーゴの表情が固まった。

慌てて袋の中を確認したが、
本はこれ１冊だけのようだ。

「………」

もしかして広告かもしれないと思い、
裏返してみる。

が、そこも表紙と同じ雰囲気の絵。

ユーゴは息を呑んでページを捲った。

実はカバーを掛け間違えていた…

などという事はなく、中身も忠実に表紙のままだった。

（こ、これって…？）

混乱した頭を抱えていると、
廊下で足音が聞こえて来た。

着替えを済ませた兄が戻ってくるようだ。

反射的に本を袋に戻す。

（どうしよう…？）

悪い事をした訳でもないのに、
心臓がどきどきしている。

何故、兄はこんなものを買って来たのだろう。

自分が読みたがっていた本では、決してない。

単なる間違いで片付けられる類のものでもない。

疑問は増すばかりだった。

―――――

ほぼ同時刻。

「あら」

自宅に戻ったカデナは、
軽い驚きの声を上げた。

見覚えのない本が、袋に入っていたのだ。

原因はすぐに分かった。

「トールったら、あたしの袋と間違えたわね」

肩を竦めてふう、と溜息をつく。

「でもちょっと…まずいかしら？」

トールには年頃の弟がいる。

うっかりあの本が、彼の目に
触れるような事があれば…

「まずいわよね…」

カデナが買い求めたそれは、
兄弟もののＢＬ本だったからだ。