すな粉妄想日記

トールは鋭い視線を、
進むべき方向へと向けた。

あちらこちらに、魔物の影が見える。

なるべく見通しが良く、
不意打ちを喰らう心配のなさそうな場所…

そこを一気に駆け抜けるのだ。

絶対に、ユーゴは傷つけさせない。

（…ん？）

その時、弟が身を震わせているのに気づく。

目線を落として顔を覗き込んでみると、
ユーゴは目元にうっすらと涙を浮かべていた。

（……！）

トールの胸がたちまち熱くなる。

守ってやらなければという思いが、
一層強く込み上げて来た。

（ユーゴ…）

守る。

絶対に、守ってやる。

「大丈夫だ」

優しくそう言葉をかけると、
ユーゴがはっとしたようにトールを見た。

澄んだ碧い瞳が、トールの姿を写し出す。

そこには不安の影こそあるものの、
警戒の色はほとんどない。

トールを信用しているのだ。

会って間もない、相手の事を。

兄とは知らずに。

トールは、弟を抱く手に力を込めた。

「俺にしっかり掴まっていろ」

ユーゴはまだいくらか体を強張らせていたが、
トールの言葉におとなしく頷いた。

腕を伸ばして首に回すと、
そのままぎゅ、としがみつく。