すな粉妄想日記

いきなり抱き上げられ、
ユーゴは驚いて目をしばたたかせた。

逞しい腕が、自分をしっかりと
包み込む。

「……あ…」

何故だかわからないが、
胸が微かに高鳴った。

視線を上げて、相手の顔を見る。

トールは険しい目つきで、辺りを見回していた。

その表情からは、何を考えているのか
まるで読み取れない。

少なくとも、自分に危害を加える気は
なさそうだという事以外。

にもかかわらず、ユーゴの胸には
不思議な安心感が漂っていた。

（この人は…）

最初に見た時から、
感じていたもの。

（何だか…似てる）

とても良く知っている、その相手。

（トール兄さんに）

ユーゴはそっと、心の中で呟いた。

でも、とすぐに思い直す。

兄さんだったら、自分に対して
こんな態度を取る筈がない。

今、目の前にいる相手の様子は
初対面そのもの。

先程、名前を呼ばれたような
気がしたのは、きっと夢だったのだろう。

それでも、兄に似ているという事が、
ユーゴの警戒心をずいぶんと薄れさせた。

（兄さん…）

本当に、今ここに、
トールがいてくれたら。

大好きな、頼もしい
兄さんがいてくれたら…

何も分からなくても、
きっと不安など消え去ってしまっただろう。

（…トール…兄さん…）

そう考えた途端、熱い涙が込み上げてきた。