すな粉妄想日記

ユーゴは窓から見える渡り廊下を、
ぼんやりと眺めていた。

今日も、ダレスに呼ばれている。

あの屈辱に満ちた時間を耐えなければならない。

想像するだけで、全身におぞ気が走る。

けれどもう…疲れ果ててしまった。

どんなに意地を張ったところで、
結局ダレスを喜ばせるだけだ。

何も考えず、ただ流されていれば…

（……その方がましか）

虚ろな瞳にただ景色を映していると、
廊下にふっと人影が見えた。

「…！！」

ユーゴは思わず息を呑む。

姿を現したのは、トールだった。

同僚と思しき相手と
談笑しながら歩いて来る。

「……っ、」

その表情が研ぎ澄まされた刃のように、
ユーゴの胸を鋭く抉った。

眩しい笑顔だった。

相手を安心させてくれる、そんな笑顔。

今まで数えきれないくらい見てきた、兄の表情。

けれど今のユーゴには…

（僕には……もう……）

あの笑顔が、自分に向けられる事は決してない。

ダレスとの間に起こった出来事を問い詰められた時以来、
目にするのはぎこちなく冷たい表情だけ。

（兄さん……）

ユーゴは視線を反らす事もできないまま、
ただそこに立ち尽くしていた。

足元が崩れ落ちていきそうな感覚に囚われながら。