すな粉妄想日記

「…そんなに恋しいのかね」

突然の背後からの声に
ユーゴは一瞬で我に返る。

表情を強張らせて振り向くと、そこには
１番顔を合わせたくない相手が佇んでいた。

しかし、

「……？」

意外な事にその顔には、
いつもの不適な微笑が浮かんでいなかった。

「あの男が…それ程好きなのか」

淡々とした口調で、再び尋ねられる。

『あんたには関係ない』……
そう答えたいのを辛うじて堪えた。

下手に反発すれば、この後何をされるか
分かったものではないからだ。

ふと、素朴な疑問が頭に浮かび、
ユーゴはそれを口にしてみた。

「あんたは…どうなんだ」

「…？何がだ」

ダレスが不審そうな表情になる。

珍しい…と、ユーゴは声に出さずに呟く。

「僕みたいな思いをするくらい…
好きな相手はいないのか？」

最も、自分にこんな真似をしているのだから、
そんな人物がいるとは考えにくいのだが…

ただもし、ダレスが今のユーゴのように
決して叶わない恋に落ちていたら、
一体どうするのだろう？

単純にそう考えた。

この身を引き裂く苦しみから、
少しでも逃れる術を知っているだろうか。

「……答える義務はないな」

氷のように冷たい声でダレスが告げる。

僅かな沈黙の後、長い髪を翻しながら
踵を返すと、無言でユーゴを促した。