すな粉妄想日記

分かってる…
いや、分かっているつもりだった。

兄さんだって、好きな相手くらいいるだろう。

いない方がむしろおかしい。

ああ、だけど。

『トールの奴…どうかしたのか？』

『鈍いわね、ガレオンは。
……恋煩いに決まってるじゃない』

知りたくなかった。

どうして僕は、あの場所を通ってしまったのだろう。

どうしてすぐに、通り過ぎてしまわなかったのだろう。

会話の端に兄の名を聞き止めて、
立ち止まったのがいけなかったのだ。

盗み聞きした罰かもしれない。

胸が、苦しい。

もう一度あの時間に戻れるなら…

叶わぬと知りつつ
僕は、心底そう願った。

「どうかしたのか？」

隣で寝ていた兄が、
おもむろに声をかけてきた。

いつもと変わらないその様子に、
かえって戸惑う。

兄さんは…好きな相手がいるんだよね？

思わず口に出してしまいそうになる。

聞いても、仕方のない事なのに。

けれど今は、兄の優しさが
単純に嬉しかった。

僕だけを見ていてくれるから。

「…別に…、ただ」

疑問を口にする代わりに
僕の唇から零れたのは、

「兄さんが…好きなだけだよ」

自分でも信じられないほど、
素直な言葉だった。

言ってしまってから
無性に恥ずかしくなって、僕は俯く。

今すぐ取り消したいとさえ思ったが
もう言葉は空気に散って、
相手の耳に届いてしまった。

どう考えても、弟の台詞ではない。

おかしいと思われただろうか？

胸の奥がずきりと痛んだ。

それでも反応を確かめたくて、
恐る恐る視線を上げる。

僕は、ひどく驚いた。

兄の顔が…
耳まで真っ赤に染まっていたから。