すな粉妄想日記

すっかり遅くなってしまったな…と
思いながら、トールは玄関の扉を開ける。

家内に柔らかな光が満ちていた。

居間にも明かりが点いているようだ。

（誰か…起きているのか？）

訝しみつつ、居間の様子を伺う。

ドアのガラスの向こうに見える人影。

父ならば襟を正して挨拶しなければならないが…

（ユーゴか…？）

どうやら、弟らしい。

トールはほっと安堵の溜息をついた。

そして同時に嬉しくなった。

「ただいま」

悦び勇んで居間のドアを開ける。

果たしてそこには、
ソファに腰掛けた弟の姿があった。

トールの声に、読んでいた本から
視線を離してゆっくりと顔を上げる。

「…おかえり」

素っ気無い口調で答えが返ってきた。

しかし、トールの胸はたちまち温かくなった。

帰ってきた時、誰かが…いや、
弟が迎えてくれるというのはとても
ありがたかった。

もしかしたら自分を待っていてくれたのでは…
などと都合の良い考えまで出て来てしまう。

「まだ、起きてたのか？」

浮かれた気分を気取られないように、
努めて平静を装った。

「…うん。これを読み終わったら寝ようと思って」

弟の方も、至って普通に言葉を返した。

兄を待っていた…と言う素振りなど、
決して表面には出さずに。