すな粉妄想日記

「ユーゴ…！！」

ありったけの思いを込めて、
トールは弟の名を呼んだ。

「ユーゴ！！」

その細い体を掻き抱きながら、
幾度も幾度も。

「うっ…、く……」

ユーゴの表情が、苦しげに歪む。

「あ……あああ！！」

両手で頭を抱え、
激しく身悶えた。

「しっかりしろ…、ユーゴ！！」

兄の叫びが辺りに響き渡る。

「うあああああっ！！」

ひときわ高い咆哮を上げると
ユーゴの体から力が抜けていく。

そしてそのまま、がくりと崩れ落ちた。

「ユーゴ…！」

トールは真剣な眼差しで弟の顔を見つめる。

成長の後は見られるものの、
良く見慣れた弟の顔…

脳裏に昔の思い出が次々と浮かぶ。

『兄さん』

あどけない笑顔、無邪気な呼びかけ。

純粋に向けられる愛情。

ユーゴは心から自分を慕ってくれていた。

『兄さん…』

けれども、トールはそんな弟に何も告げなかった。

黙ったまま家を出た。

最後に目にした弟は、これ以上ない位
悲しそうな表情をしていた。

『どうして…？』

言葉には出さなかったが、
大きな瞳がそう語りかけていた。

けれども、トールは答える事なく
生まれた家を後にしたのだ。

「頼む、戻って来てくれ！！」

もう、後悔はしたくない。

今度こそは、必ず…

「ユーゴっ！！」

「……ぅ……」

荒い呼吸をしながら、
ユーゴの目がうっすらと開く。

「！！」

トールは思わず身を乗り出す。

弟の瞳の色は、怪しい輝きが抜け落ち、
深い碧に戻っていた。

「…あ…、…」

掠れた声が唇から漏れる。

「…あんた…、は……」

途切れ途切れにユーゴが言った。

「どこまで…兄貴面……
する…つもり、なんだ…？」

紛れもない、正気の言葉。

「～～っ！！」

感極まったトールは力一杯、
ユーゴを抱きしめる。

「…ぅ、……くっ…！」

涙が止めどなく溢れ、頬を伝う。

「……？…なん…で……」

喉を詰まらせ、子供のようにむせび泣く兄を、
ユーゴが不思議そうに見上げた。

「俺…、は……」

えづきながら、トールは答える。

「お前の…、兄だ…から…」

兄弟。血の繋がり。

それは誰にも、否定できない事実。

「だから…勝手に、兄貴面させて…もらう」