すな粉妄想日記

長い口付けの後、

「…そろそろ帰らないと」

ためらいがちにトールは告げた。

時計は１１時を回ったところだ。

言われた相手が訝しげに眉を寄せる。

「まだ…早すぎると思うが？」

落ち着かない恋人に向かって、
ダレスは抗議するように答えた。

その紅い瞳が、鋭く光る。

トールは決まり悪そうな顔で
ダレスをじっと見つめた。

すまない、分かってくれと
目が訴えている。

「……弟が、心配する」

「連絡はしたんだろう？」

「……ああ」

「それならば、問題ない筈だが」

「………」

ダレスの返答に、
トールは黙って目を伏せた。

どうやら、上手い言い訳が思いつかないようだ。

そんな相手の様子に
ダレスは思わず失笑した。

帰らないという選択肢は
彼の中にはないと、悟ったからである。

トールのブラコンっぷりは
付き合う前から承知していたが…

まさか、恋人よりも優先するとは。

（心配しているのは、自分の方だろう）

弟が心配するから…と言うが、
心配しているのはトール自身なのだ。

ユーゴを１人にしておくのは
不安でたまらない、と。

（……相手があの子なら、仕方ない事か）

ダレスはこれみよがしに溜め息をつくと

「この埋め合わせはしてもらうぞ」

しっかり念を押して、帰宅の許可を出したのだった。