すな粉妄想日記

ユーゴ姫は息を切らせながら、
部屋に駆け込みました。

「トール兄様っ！！」

その視界に飛び込んできたのは、
傷ついて横たわる兄の姿でした。

「…！！」

姫は思わず息を呑みました。

あまりの事に、がくがくと足が震えます。

「トール兄様…どうして…」

姫は兄の傍らに崩れるように
しゃがみ込みました。

「…命に別状はない」

冷ややかな声が頭上から振ってきました。

はっとして顔を上げると、
父が姫を見下ろす形で立っていました。

その顔には険しい表情が浮かんでいます。

「父上！…どういう事なのですか」

姫は叫ぶように言いました。

大切な兄の傷ついた姿を見て、
動揺を隠せませんでした。

「どうもこうもないわ」

そんな姫とは逆に、心底呆れた様子で
カインが答えます。

ベッドの上のトールを一瞥すると、

「こいつは勝手に、王子に決闘を挑んだのだ」

「え…！？」

「お前のためにだ。ユーゴ」

そう言って姫にも、鋭い視線を向けました。

態度こそ落ち着いているものの、
父が激しく怒っているのが理解できました。

しかし、その言葉の意味が分かりません。

「私の…ため…？」

姫は困惑しながら尋ねます。

カインは眉ひとつ動かさずに告げました。

「自分が勝ったら、お前との結婚を
止めてくれるように申し出たのだそうだ」

「―――！！」

父の言葉を聞いたユーゴ姫は、
雷に打たれたようにその場に立ち竦みました。