すな粉妄想日記

その夜、ユーゴ姫はトールの寝室にいました。

しかもベッドの中で、
ぴったりと体を寄せています。

姫は何も身に着けていませんでした。

「トール兄様…」

碧い瞳に大粒の涙を湛えながら、
兄の胸に顔を埋めます。

避ける事のできない現実が、
姫の心に突き刺さっていました。

もう、どうしようもありません。

自分をこの上なく辱めた相手の所へ、
嫁がなければならないのです。

愛してやまない兄の元から離れて…

それは姫にとって、身を切られるような思いでした。

ですから、

「お願いがあります」

姫は最後に後悔のないよう、
自分の気持ちを伝える決意をしました。

「…兄様が好きです」

涙に濡れた顔を上げて、トールを見つめました。

最も大切な、大好きな相手を。

「いえ…愛しています」

姫からの告白を受けたトールは、
思わず息を呑みました。

姫の言う愛が、兄弟愛などというものではない事を
はっきりと理解したからです。

そして姫が…何を求めているのかも。

「…ユーゴ…」

返事をする代わりに、トールは
姫の体を力一杯抱きしめました。

実はトールもまた、同じ想いを抱えていたのです。

けれどそれは、決して許されない事でした。

血の繋がった兄弟で愛しあうなどという事は。

姫の方も分かっていたはずです。

「でも…、もう…」

嗚咽の合間に、消え入りそうな声で
姫が告げました。

「兄様には会えなくなる…」

王子の元へ嫁げば、おそらく
帰ってはこれないでしょう。

もしかしたら一生、会えないかもしれないのです。

しかし姫が決意した理由は、
それだけではありませんでした。

「私は…」

激しくためらいながらも、
姫は告げました。

昨夜、王子との間に何があったのか…

自分に起こった出来事を全て。

「…！！」

あまりに残酷な事実に、
トールは驚愕しました。

まさか姫が…大切な弟が、
手籠めにされていたなどと…

溢れる涙の粒が、次から次へと落ちて来ました。

「だから、だから、最後に…」

その後はもう言葉になりません。

わななく細い腕が縋るように、
トールの体を抱きしめていました。

「ユーゴ…」

そんな姫を見たトールは、
とうとう自分の感情を抑えきれなくなりました。

「俺の…、ユーゴ…！！」