すな粉妄想日記

「ねえ、トール」

「何だ？カデナ」

「あんたの弟…なかなかやるじゃない」

弟、という単語を耳にした途端、
トールの表情がぱっと輝く。

「ユーゴが…俺の弟が？」

意識しているのかいないのか、
いちいち俺の、を強調している。

カデナはもう慣れているので
特に気にしないのだが。

「さっき、店から出て来るのを見たんだけど…」

そこで少し声を潜める。

「かなりたくさん、買い込んでたわ」

ユーゴは随分大きめな袋を抱えて
いたという。

とても１人で消費できる量ではなさそうだった。

その店で買うものといったら、
選択肢はお菓子一択しかない。

今、そんな大量のお菓子を買い込む理由は…

「…お返し用よね？」

カデナは得意そうに囁いた。

「一体、何人からもらったのかしら」

興味津々でトールに尋ねる。

「そうだな…」

聞かれたトールは、
軽く首を傾げた。

「詳しくは分からないが…
結構、もらってたんじゃないか」

その表情はどこか楽しそうだ。

「やっぱり？…やるわねユーゴ」

カデナはうんうんとひたすら頷く。

どうやら納得したようだ。

が、しかし。

トールには、分かっていた。

確かに弟は、ホワイトデー用の
お返しも買ったのだろうが……

その大半は、自分のためのものだ。

この時期ならば、男が１人で大量に
甘いものを買っても、不自然に思われない。

貴重なチャンスを、ユーゴはしっかり利用する。

今頃、家で舌鼓を打っている事だろう。

しかしここは、相手の望む
返答をしておくべきである。

弟の評価を高めるためにも、だ。

「俺の弟は、もてるからな」

胸を張ってトールはそう宣言した。

「あら…あんたの方はどうなの？」

「ユーゴには敵わないさ」

得意満面なトールに、
カデナがそこは悔しがるところでしょう、と笑った。

「あんたって…本当に兄バカねえ」