すな粉妄想日記

（何を考えているんだ、俺は…）

軽く頭を振って、トールは
溜め息をついた。

（弟の相手に嫉妬してどうする？）

年が離れていたせいか、
ユーゴはとにかくお兄ちゃん子だった。

いつもトールの後をついて来たがったし、
甘えてばかりいた。

さすがにここ数年は
距離を取るようになったものの、
それでも一緒にいる時間は長かったと思う。

居間のソファで良く話をしたし、
部屋に来る事もしょっちゅうあった。

だから、恋人ができたと
聞かされた時は少なからずショックを受けた。

真っ先に感じたのは
寂しさだったかもしれない。

もう弟は、自分だけのものではないのだと。

兄としての優位性など、
恋人の前には…

（この年になって、弟離れできていないとはな）

トールはふっと自嘲気味に笑みを漏らした。

（部屋に戻るか…）

そう思って、もう一度視線を
弟に戻した。

すると、

「う……ん…」

ユーゴが僅かに身じろぎした。

目を覚ますのかと一瞬
戸惑ったが、少し体を動かしただけで
弟はまたすやすやと寝息を立て始めた。

ほっと胸を撫で下ろしたその時。

トールの瞳に見慣れないものが映った。

白い首筋にうっすらと滲んだ、紅い色。

見間違いかと目を瞬かせる。

しかし、そうではなかった。

肌に刻まれた唇の跡…

紛れもない所有の証だった。