すな粉妄想日記

ユーゴがトールの前に回りこみ、
ぐっと顔を近づけて来た。

「！」

驚いたトールは、思わず目を見開く。

月明かりに照らされた白い肌。

細い手が伸ばされ、トールの頬に触れる。

「…兄さん」

この上なく真剣な眼差し。

強い口調で、ユーゴは告げた。

「飲んでくれよ」

「……っ！」

トールにとってそれは、
あまりにも過酷な申し出だった。

同時に、強烈な抗い難い誘惑。

弟は自分の血を飲め…と言っている。

その肌に牙を突き立て、
血を啜れと……

「駄目だ！！」

トールは声を上げて否定する。

激しく頭を振ると、弟の肩を掴んだ。

細く頼りない感触が手の平を伝う。

こんな体から血を奪うなど、
できるはずがない…！

狂おしい程の乾きに苛まれながらも、
トールは必死で拒絶する。

「兄さん…！！」

ユーゴの悲痛な叫びが耳をつんざく。

駄目だ…駄目だ。

俺には、できない…したくない。

だがこのままでは、いつまで耐えられるか分からない。

トールは踵を返して
弟から逃れようとした。

その、瞬間。

強い力で引き寄せられたかと思うと、
唇に柔らかなものが触れた。

「……！！」

同時に、温かく、甘美な味。

トールの全身に痺れるような衝撃が走る。

それは求めて求めて止まないものだった。

体に染み込む、命の恵み……

甘い、血の味。

トールの理性が欲望の前に
崩れ去っていく。

意思に反して、渇きを癒そうとする体は
ユーゴの血をひたすら貪った。