すな粉妄想日記

「本当、なのか」

若干のためらいはあった。

が、確かめたいという気持ちを抑えられず、
ユーゴはその疑問を口にした。

「あんたが…その、僕に…」

プライドを傷つけるような気がして、
つい兄から視線を背ける。

「劣等感を感じていたっていうのは」

それでも聞かずにはいられなかった。

罪悪感が胸を掠める。

「ああ。本当だ」

そんな弟とは対照的に、
トールは気にした風もなくさらりと答えた。

「………」

ユーゴは顔を上げ、再び兄の姿を見る。

目前に佇む兄は、憧れ続けた
トール＝ファクトそのものだった。

魔の因子が抜けて、元の美しい色に
戻った髪がきらきらと輝く。

その眩しさに、溜息をつきそうになった。

なんて頼もしく見えるのだろう。

到底、勝てる気なんてしないのに…

「お前の方が才能があったのは、確かだ。
後継者にふさわしくな」

「でも…！！」

思わず反論の声を上げる。

「あ……、いや……
……兄さんだって」

今までずっと、追いかけて来たのだ。

「優秀だったじゃないか」

兄の方が優れていると思って。

負けたくないと思って。

「そう言われると、面映いな」

弟の言葉を聞いた兄は
くすぐったそうに笑った。

「だが…」

表情とは裏腹に、
その声が真剣味を帯びる。

「お前には適わないと分かった。
だから俺は…自分の道を探したんだ」

「………」

ユーゴは兄の言葉を一言一句、
噛み締めるように受け入れた。

「それに、」

トールの口調が優しく、
穏やかなものになる。

「神官になったお前を、この腕で守ってやる事が
できるだろう？」

今となっては無理な話だが…、
そう言って兄は肩をすくめた。

「……っ」

胸に熱いものが込み上げてきて、
ユーゴは思わず俯いた。

力強いその笑顔に、
不覚にも見惚れてしまったのだ。

（……適わないな…、やっぱり）

心の中でそっと呟かれた告白を、
トールは知る由もなかった。