すな粉妄想日記

「トール副長の事？」

意外な人物から質問を投げかけられて、
ロイは思わず目を丸くする。

「ああ…その…、
にいさ…いや、兄の事を」

目の前の相手は、余程
言いにくい質問だったらしく
しどろもどろになっていた。

視線を彷徨わせながら
必死で言葉を探している。

今までの、どこか人を突き放したような
印象とは遠くかけ離れたその姿は、
ロイの目にむしろ好ましく映った。

やがて、相手はようやく
はっきりとした言葉を口にした。

「良ければ、その…兄が、
騎士団にいた頃の事を聞かせて欲しいんだ」

かつて、騎士団の副長を務めた人物…
トール＝ファクト。

その弟であるユーゴ＝ファクトは、
兄と同じ騎士団員だったロイにそう尋ねた。

ほとんど会話らしい会話をした事も
なかったから、声をかけられた時
ロイはいささか驚いた。

が、相手の意図を知ってようやく
得心がいった。

「僕は…兄の、トール＝ファクトの事を
何も知らなかったから…」

気恥ずかしそうに告げる様子は、
ユーゴを一気に年相応の少年に引き戻した。

「そうか。そういう事なら…」

ロイは笑顔で相手に答える。

「俺の知っている範囲で良ければ、
なんでも話すぜ」

それを聞いたユーゴの表情が、
ぎこちないながらも綻んだ。

「ありがとう…、頼む」