すな粉妄想日記

乾いた音が部屋中に響いた。

その衝撃で、ユーゴがよろめく。

「…どういうつもりだ」

トールは怒りに身を震わせながら、
壁にもたれた弟に言った。

ユーゴは俯いたまま、
床に視線を落としている。

「顔を上げろ」

今にも爆発しそうな感情を、
必死で押し殺した口調。

「俺を見るんだ」

兄の言葉に、弟は
のろのろと従った。

その瞳に浮かんでいるのは、
深い悲しみの色。

「……」

何も言わず、兄に視線を向ける。

覚悟はしていた…、

そんな様子だった。

「ユーゴ」

トールもまた、どうしようもない程の
悲しみに支配されていた。

今は、怒りの方が勝っているけれども。

その根底にあるのは、ユーゴと同じだった。

「お前は…、何を考えているんだ」

詰問する声が震える。

「……」

弟は答えない。

トールは拳を力の限り
握り締めた。

爪が皮膚に食い込み、
血が滲むくらいに。

その痛みで、少しでも平静を
保とうとした。

（…分かっている）

愚問だった。

聞くまでもない事だった。

答など、
分かりきっているではないか。

それでも口にせずにはいられないのは、
弟以上に、自分に対しての憤りのためだった。

（俺のせいで…）

トールのせいで、
ユーゴは体を汚した。

兄が、これ以上父に
蹂躙されないように…

自分から、その身を犠牲にしたのだ。