すな粉妄想日記

「…久しぶりに呼ばれたな」

そう言ってトールは気恥ずかしそうに笑った。

ユーゴも何だか照れ臭くなり、
ふいと視線を逸らして俯いた。

「おっと…」

弟の機嫌を損ねたと思ったのか、
慌ててトールが言い繕う。

「気を悪くしないでくれ。
……その、なんだ」

不器用な性格のため
なかなか気の利いた言葉が出てこない。

「あんまり嬉しかった、から…な」

結局、正直に自分の気持ちを口にした。

「……！」

ユーゴは思わず兄を見る。

昔と変わらぬ笑顔がそこにはあった。

優しく頼もしく、包み込むような…

この腕の中にいれば、安心できる。

至上の安らぎの場所。

そんな風に思わせてくれる笑顔。

「……兄さん」

手を伸ばして兄の首に縋りつく。

もう何年、呼んでいなかっただろう。

兄弟でありながら…すぐ近くにいながら、
まともに顔を合わせる事も叶わなかった。

兄と呼ぶ事すらも。

「トール、兄さん…！！」

今までの空白を埋めるように
何度も呼び続ける。

「ユーゴ…」

大きくて逞しい手が
ユーゴを抱きしめた。

「俺達は、兄弟だ」

囁くように告げる。

「ずっと…ずっと、変わらない。
誰にも否定できない」

まるで自分自身に言い聞かせているかのように
トールは繰り返した。

兄の言葉に、ユーゴは静かに頷く。

この世でたった２人の兄弟。

永遠に繋がる血の絆。

これからもう二度と…会う事がないのだとしても。