すな粉妄想日記

トールが部屋に戻ろうとすると、
扉の前に人影が見えた。

「…？」

こんな時間に誰が、
と訝しみながら目を凝らす。

それは…

ユーゴだった。

部屋の明かりは点けたままに
しておいたので、兄が中にいるものと
思ったらしい。

扉の隙間から零れる光を見つめて
ノックをしようかどうか、
迷っている様子だった。

正直、今は弟と顔を合わせたくなかった。

あんな事を知った後で。

そして、あんな行為をした後で…

声をかけるのをためらっていると、
ふいにユーゴがトールのいる方へ視線を向けた。

「…あ」

薄暗い廊下に兄の姿を認めて、
不安そうだった表情が和らぐ。

しかし、いつものように駆け寄ってはこない。

何か言いたい事があるのだろうが、
それを口にしていいのかどうか
ためらっているようだ。

「……」

トールは覚悟を決めて、
弟に呼びかける。

「どうしたんだ、ユーゴ」

すると、安心したのか
ユーゴの顔が僅かにほころんだ。

「兄さん」

トールは薄明かりの中で
弟の姿を見つめた。

線の細い端正な顔立ち。

小柄で華奢な身体。

父の教育の為か、年の割には
大人びた雰囲気だが、その容姿は
まだまだ幼さを残している。

（こんな…子供なのに）

トールの脳裏に再び弟の声が蘇る。

父の与える快楽に身を委ね、
吐息と共に漏れる甘い声が。

あんな淫らな行為を…

弟は父と繰り返していたというのか。