すな粉妄想日記

その日の夜、トールは再び
書斎に佇んでいた。

窓から差し込む月明かり。

難解な魔道書が並ぶ
幾つもの本棚。

空気すら重々しく感じる
この部屋で、行われた秘め事。

いくら考えまいと思っても、
はっきりと脳裏に刻まれたそれは
生々しく蘇ってトールを苦しめた。

「……」

月光の届かない、書斎の
奥に視線を向ける。

今は誰もいない。

漆黒の闇に覆われたその場所は、
何事もなかったかのように
静寂を湛えていた。

トールは唇を痛い程噛みしめる。

（…ぁ…）

微かな物音に混じって聞こえてきた、
吐息と共に漏れる弟の声。

（父…上…）

初めは、ユーゴが父に無理矢理
強要されているのかと思った。

だから一瞬、父の怒りを買うのを承知で
止めに入ろうとした。

しかし。

すぐにその考えは誤りだと気付かされた。

何故なら…

（…ん、はぁっ…）

とぎれとぎれに聞こえてくる
弟の声には、確かに悦びの色が
含まれていたからだ。

「……っ」

トールの表情が苦悶に歪む。

自分が一体、
どうしたいのか判らなかった。

弟を救ってやる…

そんな行動はお門違いだ。

弟は…、ユーゴは、
あの背徳的な行為を
受け入れてしまっているのだから。

（あぁっ！！…）

とても少年のものとは思えない、
官能的で艶かしい声だった。

（…もっと…、父上っ…）

トールは大きく肩を落とすと、
そのまま崩れるように床に座り込んだ。

身体の芯が、熱く疼いている。

その感覚に導かれるように、
下腹部にそっと手を伸ばした。