すな粉妄想日記

家を出ようとするユーゴの背中を、
兄の声が呼び止めた。

「ユーゴ！！」

弟を追って、長い廊下を
トールが全力疾走して来る。

「忘れ物はないか？ハンカチは？ちり紙は
ちゃんと持ったんだろうな？」

息を切らしながら、早口でまくしたてた。

「……」

そんな兄を一瞥し、
ユーゴは深い溜め息をつく。

「…あのね、兄さん」

子供に言い聞かせるような口調で
話しかけると、トールは「ん？」と
首を傾げた。

「いい加減にしてくれ。僕だって
もう小さな子供じゃないんだから」

途端、兄はハトが豆鉄砲を食らったような
顔になった。

「…ユーゴ？」

何とも情けない声で
恐る恐る、弟に問いかける。

「それは…、もう兄さんは必要ないと言う事か！？」

そのあまりに悲痛な兄の様子に、
ユーゴは思わす怯んだ。

「あ…、その…」

しかし、ここで折れる訳にはいかない。

いつまでもこんな調子では困るのだ。

いい加減に弟離れしてもらわなければ。

「そういう訳じゃなくて…」

兄を傷つけないよう、言葉を選びながら続ける。

「いつまでも子供扱いするなって事だよ」

「！！」

トールの目が大きく見開かれた。

相当ショックだったのだろうか。

弟を見つめながら、呆然と
立ち尽くしてしまっている。