すな粉妄想日記

「なあ、ユーゴ」

居間でソファに座って読書に耽る弟に、
トールはさりげなく声をかける。

「…今日は、何日だったかな」

ユーゴは顔を上げて、訝しそうな表情で答えた。

「２月１４日だろ？」

どうしてそんな事を訊くのかと
言わんばかりの態度に、トールは失望する。

が、諦めるにはまだ早い。

弟はきっと、素知らぬふりをしているのだ。

何故なら。

弟の側にちょこんと置かれている包み。

丁寧にラッピングされた、小さな袋。

あれが今日の贈り物でなくて、何だと言うのか？

「日にちは分かってる」

「？じゃあ何でわざわざ訊いたんだ」

「だから…、今日は何かの日じゃなかったかと」

「ああ。そう言えば…バレンタインだろ」

トールの顔がぱっと輝く。

やはり分かっていたんじゃないか。

そう、その通りだ。

心の中で力強く頷く。

ところが、ユーゴの反応は
トールが望んだようなものではなかった。

「バレンタイン司祭が投獄されて、処刑された日だよな」

「………」

どうしてそんな殺伐とした話になる？

「拷問の末に殺されたなんて、気の毒だな」

「………」

この後に及んで、その態度なのか？

お兄ちゃんに渡すものがあるだろう？

トールはとうとう業を煮やして詰め寄った。

「ユーゴ、」

その時、玄関で扉の開く音がした。

「！！父上だ」

弾かれたようにユーゴが立ち上がった。

そのまま居間を出て、父を出迎えに向かう。

胸に綺麗にラッピングされた袋を抱えて。

「………」

（それはないだろ…）

トールはがっくりとうなだれ、
肩を落として嘆息した。