すな粉妄想日記

気がついた時、兄の姿はどこにもなかった。

身体の奥が、
痛みに熱く疼いている。

「…っ、…」

ユーゴはやっとの思いで身を起こす。

つい先程まで行われていた、
悪夢のような出来事が脳裏をよぎる。

唇を痛い程噛みしめ、
自分の身体をきつく抱きしめた。

兄が残していった感覚が
全身を苛んでいる。

（…どうして）

兄はあんな行為に及んだのだろうか。

同性同士で…、
しかも血の繋がった兄弟で。

それはあまりにも背徳的で、
あまりにも罪深い。

にもかかわらず、兄は…

（……だ…）

頭の中に、先程の兄の言葉が響く。

はっきりとは聞き取れなかったが、
こんな事を言ったように思う。

（お前を抱くのに、ためらう理由がなくなったからだ）

もしこの言葉が真実だとすれば…

兄は以前から、こうする事を望んでいたのだろうか。

弟である自分を、
欲望のはけ口にする事を。

由緒正しき神官家の長男という立場が、
兄を思い留まらせていたのだろうか。

しかし裏切り者となった今、
最早そんな事を気にかける必要はない。

どんな風に振舞おうと、失うものは
もうないのだから。

（…わからない…、僕には…）

ユーゴの白い頬に
涙がまたひと筋、新しい跡を作った。