すな粉妄想日記

服装を整え終わると、
ユーゴは足元に視線を落とした。

その先には、
満身創痍で横たわるトールの姿があった。

すでに意識はなく、
顔色は蒼白だ。

「………」

死ぬ事はないだろうが、
先刻の行為は傷ついた体に
かなりの負担をかけた筈だった。

ユーゴは唇を硬く引き結び、
顔を強張らせながら兄を見下ろしていた。

４年間。

４年間ずっと、心の奥に封じ込めていた感情。

恐怖、絶望、孤独…

そこから生まれた怒りと憎しみ。

炎のように燃え上がる黒い激情。

それを全て、原因となった
相手に叩き付けた。

自分を襲い、傷つけた兄に。

兄のせいでユーゴの世界は壊れた。

喜びも安らぎも奪い去られた。

あるのは、悪夢のような記憶だけ。

夜が来るのが恐ろしくて
たまらなかった日々。

誰にも打ち明けられず、
独りでどれだけ苦しんだ事か…

だから、同じ目に合わせてやった。

４年前の自分と。

復讐を遂げた…そう言ってもいいだろう。

なのに。

ユーゴの気は微塵も晴れなかった。

兄と再会した時から込み上げて来たものが、
未だにとどまり続け、くすぶっている。

（…どうしてだ…）

恨みは晴らした。

思い知らせてやった。

（僕は…勝ったんだ）

しかし、いくら自分に言い聞かせてみても、
胸に巣食う不快感は拭い去れなかった。

周りを取り巻く空気が重い。

ユーゴは苦い表情を浮かべたまま、
兄の傍らに立ち尽くしていた。