すな粉妄想日記

『兄さんは、優秀だから』

素直に自分を元気づけようとしてくれた
言葉だったと思う。

いつもの自分なら、笑って頭を撫でてやっただろう。

けれど、今日はそうはいかなかった。

弟の才能に気付いてからというもの、
トールはずっと悩み続けていた。

自分に自身を失くしかけていた。

その感情を表に出さないよう、
必死に努力した。

しかし周りの人々は、そんなトールの
葛藤など知る由もない。

誰にも理解されぬまま、
血の滲むような訓練に耐える日々。

そして今日、父に激しく叱咤され、
トールは失意の底にあった。

鉛のように重い体をベッドに沈めながら、
きつく目を閉じる。

もう、何もかも投げ出してしまいたい。

このまま眠って、いっそ目が覚めなければ…

そんな考えが脳裏に浮かんだ時、
ドアを叩く音ではっと我に返った。

先程の兄の様子が気になっていたのだろう。

ユーゴがおずおずと部屋に入って来た。

表情や口調から、本気で
心配しているのが痛い程伝わる。

ユーゴの優しさは、
トールにも良く分かっていた。

なのに何故…

自分を気遣う弟の言葉が、
こうも胸を抉るのか。