すな粉妄想日記

訓練が思うように進まず、父から厳しい叱責を受けた
トールは、心身共に疲労していた。

重い体を引きずるようにして家に戻ると、
玄関に佇む小さな影がある。

ユーゴだった。

もう長い事待っていたらしく、
時間を持て余しているのが分かった。

トールの姿を認めた途端、
嬉しそうに目を輝かせて駆け寄って来る。

が、兄の様子を見ると、
たちまち心配そうな表情を浮かべて立ち止まった。

抱きつこうとして伸ばした手を
そっと戻し、ユーゴはトールを見つめる。

『大丈夫、兄さん…？』

トールは笑顔を作ろうと試みたが上手くいかず、
苦笑いのような形になった。

少し疲れただけだから部屋で休むと告げると、
弟は素直に頷いて、家の中へ戻って行く。

その小さな背中を見送りながら、
大きく溜め息をついた。

ユーゴは、まだ幼い。

自分の秘められた能力に、まるで気づいていないのだ。

類いまれな才能を持っているのにもかかわらず、
兄を自分より優秀だと信じて疑わない。

そんな弟を見るにつけ、
トールの胸にやり切れない感情が渦を巻く。

毎日、こうして身が擦り切れるような
訓練を続けているが、果たしてそれは
意味のある事なのだろうか？

自分がどれ程努力しようと、
ユーゴには及ばないのだから…。