すな粉妄想日記

実際は、ほんの数秒間の事だった。

しかし２人にとっては、
何分、何十分にも感じられたかもしれない。

触れ合っていた唇が、そっと離れる。

兄と弟の視線が絡み合った。

しばらくの沈黙の後に、
ユーゴが口を開いた。

「…初めてなんだ」

「……え？」

弟の呟きに、トールは思わず目を見開く。

「キスをするのは」

寂しそうな笑みを浮かべて
ユーゴはそう告げる。

「兄さんが初めての相手で…嬉しい」

その言葉を聞いて、
トールの胸が締め付けられるように
苦しくなった。

確かに、初めてなのだろう。

口付けを交す。

その事に関してだけは。

「…ユーゴ…」

トールはそのままユーゴを抱きしめた。

細い、華奢な弟の体。

柔らかな肌の感触が、
全身に伝わってくる。

「……っ」

思わず、唇をきつく噛み締めた。

この体はもう…、

トールは弟の背中に回した腕に
力を込めた。

俺が…守ってやれたら。

そう考えずにはいられなかった。

どうして、気付いてやれなかったのか。

何度悔やんでも、悔やみきれない。

呻くように、声を漏らした。

「すまない…ユーゴ…」

ユーゴは微かに身を震わせると、
兄の腕の中で、静かに頷いた。