すな粉妄想日記

夕食後。

「兄さん」

後片付けの最中、
ユーゴはトールに声を掛けた。

できるだけさり気無く、
自然なつもりで。

「ん？なんだ」

振り向いた兄の視線に
少しどきりとする。

「別に…、たいした事じゃないけど」

余計な前置きかと思いつつ、
言葉を続けた。

「…あのさ」

なるべく普通に、平静を装って。

「兄さんは、どんな時に嬉しいと思う？」

「お前といる時だな」

即答。

ユーゴの腰ががくっと砕けた。

「…いや…そういうのじゃなくて…」

いきなり詰まってしまい、
ユーゴは口篭る。

数時間前。

『もうすぐ、兄貴の誕生日なんだ』

エポナからそんな話を聞かされた。

今まで特に贈り物などしていなかったのだが、
働き始めた兄を見て、何かしてやりたく
なったのだと。

しかし、あの年頃の男性に
何を贈ればいいのか
皆目検討がつかないらしい。

聞けば、エポナの兄も
トールと同じ歳だと言う。

なのでユーゴなら、
何か知っているかもと尋ねて来たのだ。

幸い、兄の好みは把握していたので
一通り教えてやったのだが…

そこでふと、ユーゴは思い当たった。

兄は何をあげても喜んでくれる。

『ありがとうな、ユーゴ』

受け取った後は必ず、
零れるような笑顔を向けて。

（……だけど…）

果たして、本心なのだろうか？

いや、喜んでいるのは確かだと思う。

けれどもそれは、相手の気持ちを
汲んでの事なのではないか。

たとえ本当に望んだ物でなくても、
ユーゴがくれた物だからと…

兄はそういう気遣いのできる人物なのだ。

先程の答も、弟に気を遣わせまいと
考慮した結果なのかもしれない…

「ユーゴ」

「っ！？」

気づけば目前に兄の顔。

「ご褒美のキスを
してくれると最高なんだが」

そう言って、トールは弟に迫って来た。

「な…！！」

身の危険を感じると同時に、
早くもユーゴは兄への認識を
改める必要性を実感したのだった。