すな粉妄想日記

「じゃあ、おやすみ」

「ああ…おやすみ」

そう答を返しながら、
トールはひどく動揺していた。

毎日眠る前に交す、軽い口付け。

何の事はない、ただの挨拶のようなものだ。

しかし…

今日の昼過ぎに遭遇した、あの出来事。

脳裏に浮かぶ２人の兄の姿。

兄弟同士のものとは思えない行為…

トールは必死でその光景を
頭の中から追い出そうとした。

（駄目だ…、意識するな）

何度も自分に言い聞かせ、
ユーゴの頬に手を当てる。

できるだけ自然に…、

眼を閉じて、そっと唇を重ねる。

ユーゴが微かに身を震わせた。

いつもはどれ位の間、
こうしていただろうか？

ほんの数秒が、とてつもなく
短いようにも長いようにも感じられた。

トールはためらいながら、
ゆっくりと唇を離す。

（……あ…）

ユーゴの顔を見たトールは
思わず息を呑む。

頬が、紅く染まっていた。

そんな様子を見せた事は、
今まで一度もなかったのに。

ユーゴも、自分と同じように
意識していたのだろうか？

（ユーゴ…）

たまりかねて
名前を呼ぼうとした時、

「…それじゃ」

ユーゴは踵を返すと、
たちまち部屋の中へ姿を消してしまった。