すな粉妄想日記

居間に入ろうとしたユーゴは、
思わずふっと足を止めた。

（……？）

扉の向こうから、微かに音がする。

途切れなく流れるように聞こえてくる音…

それは、ピアノの音だった。

広い居間の窓際には、
大きなグランドピアノが置かれている。

自分も含めてこの家の兄弟は全員、
ピアノの手ほどきを受けていた。

ただ、トールだけは余程
性に合わなかったと見え、
早々に止めてしまった。

が、父もそれは早い段階から見抜いていたらしく、
特に文句も言わなかった。

扉を隔てて流れてくる曲は、
とても流麗で美しい。

（……誰だろう）

正確にはどちらの兄だろうと
思いながら、ユーゴはそっと扉を開けた。

演奏の邪魔にならぬよう、音を立てずに。

僅かに開け放たれた窓から
朝の光と、静かな風。

薄いカーテンがふわりと揺れている。

ピアノの前に座っていたのは、
一番上の兄だった。