すな粉妄想日記

「え……？」

トールは驚いて、大きく目を見開きました。

「どういう事ですか、父上！？」

「そのままの意味だ」

目前にいる父―カインが答えます。

淡々とした口調でした。

「ユーゴを…嫁がせる…！？」

トールは、信じられないという様子で聞き返しました。

あまりに唐突な事でしたから。

しかもそんなに重要な話であるにもかかわらず、
父は事も無げに告げたのです。

まるで当然の決定事項だという風に…

「ですが、ユーゴはまだ子供です」

困惑を隠せないまま、抗議の声を上げました。

「もう１５歳だ。むしろ丁度良かろう」

カインが冷たく言い放ちます。

「あの国は、独特の魔法技術を持っている。
ユーゴがダレスへ嫁げば、有益な関係を築けるだろう」

そこでふっ、と口端を上げると、

「幸い、あやつはユーゴを気に入ったようだしな」

冷ややかな微笑を浮かべました。

「…！！」

トールは、絶句しました。

父は弟を、外交のために利用するつもりなのです。

確かにそれはイース国にとって、またこの家にとって
有益な事に違いないでしょう。

けれども…

「しかし、父上！！」

トールにとってユーゴは、
とても大切な弟でした。

年が離れているため、トールは父親のように
弟の面倒を見てきました。

ユーゴもそんな兄の事を慕っていました。

２人は大変、仲の良い兄弟だったのです。

ですから今回の話は、到底、
受け入れられるものではありませんでした。

「ユーゴはまだ未熟です」

トールは必死になって訴えました。

可愛い弟を、会ったばかりの相手に嫁がせるなど…
耐えられない事でした。

「せめてもう少し時間を……」

そんなトールに対し、
父からの答えは無慈悲なものでした。

「もう決まった事だ」

カインの低く重い声が、まるで
刃のように突き刺さりました。