すな粉妄想日記

「…兄さん」

ユーゴは手を伸ばすと、
兄の胸へと顔を埋めました。

「ありがとう…」

そして小さく肩を震わせると、
再び啜り泣き始めました。

「ユーゴ…」

トールは優しく微笑みながら、
弟の背中に腕を回します。

愛情を込めて、その体を抱きしめました。

強く、強く…
名残を惜しむように。

兄弟が一緒の時間を過ごせるのは、これが最後になるでしょう。

夜が明ければ２人、別々の道を歩んでいかねばなりません。

兄は神殿騎士として、弟は神官家の後継者として…
それぞれの人生を。

再び会えるのはいつになるか…

１年…いえ、もっと先かもしれません。

けれど、２人に後悔する気持ちはありませんでした。

それは曲がりなりにも、自分達で決めた事だからです。

王子との件のように、周りから理不尽にもたらされた
別れではないのですから…

「兄さん…」

ただそれでも、別れの時を思うと、
胸が引き裂かれる思いでした。

「最後に…」

兄の腕の中、ためらいながらも
ユーゴが告げます。

言葉の終わりは聞き取れないほど
か細い声でしたが…

「……分かっている」

トールは力強く頷いて答えました。

月明かりが静かに、兄弟を照らしていました。