すな粉妄想日記

弟の涙を目の当たりにして、
トールはひどく狼狽した。

まさか、ユーゴがそんな風に
自分を責めていたとは…

想像もしていなかった。

事実、トールを騎士の道へと
進ませる事になった理由は弟にある。

だが、その事でユーゴを恨んではいない。

むしろ弟が神官になるのが
待ち遠しいとさえ思った程だ。

黒衣の装束を身に纏い、
神官家の頂点に立つ弟。

それはどんなに誇らしい事だろう。

自分は騎士として、ユーゴを守っていく。

劣等感を感じる事なく、堂々と胸を張って…

「ユーゴ」

トールは指先でそっと、弟の涙を拭った。

「お前は何も…悪くない」

強い口調で告げる。

責があるのは自分なのだ。

長男の義務を放棄したと
罵られてもおかしくない。

けれど弟は、未だ変わらぬ
愛情を向けてくれている。

「お前がいるから…俺は幸せなんだ」

ユーゴは涙に濡れた瞳で兄を見た。

それに応えるように、トールは微笑む。

「こうしてこの家に帰って来られるのも、
…お前のおかげだ」

ユーゴがいつも笑顔で迎えてくれるから。

こんな兄の帰省を、心待ちにしてくれているから。

自分には弟が必要なのだ。

この想いを伝えるのに、言葉だけではとても足りない。