すな粉妄想日記

トールの手が背中に回され、ユーゴを強く抱きしめた。

「兄さん……」

先程の言葉が、頭の中で繰り返される。

苦労をかけてすまないと、兄は言った。

ユーゴは再び考える。

確かに自分は、大変な環境にあるのかもしれない。

幼馴染達と疎遠になりながら、神経を擦り減らして
過酷な訓練に耐えている。

だが、それを疑問に思った事はない。

神官家の筆頭である、ファクトの後継者ならば、
当然の義務だと認識していたから。

そしてそれは、以前の兄の立場だった。

「兄さんだって…そうだったじゃないか」

トールも、父親から厳しい訓練を受けていた。

そのあまりの過酷さに兄が可哀想だと幾度も思った。

叱られるのを覚悟で父に抗議した事もある。

しかし、トールは泣き言ひとつ言わなかった。

弟である自分の前では、いつも笑顔だった。

そんな兄を、ユーゴは心から尊敬していたのだ…

「…ああ。だけどな…」

抱きしめる腕に力がこもった。

温かなぬくもりがユーゴを包み込む。

「俺には、お前がいた」

真剣な声でトールが告げる。

「どんなに辛くても…お前が側にいてくれたんだ」