すな粉妄想日記

静かな寝息が規則正しく響く。

逞しい体にそっと、ユーゴは指を滑らせた。

鍛えられた筋肉の感触が指先に伝わってくる。

どれほどの鍛錬を積んだのだろうと、
自分の知らない兄の生活に思いを巡らせた。

そしてふと、もしユーゴが兄の立場だったら…
という考えが頭に浮かぶ。

すぐ側に自分以上の才能を持った
人物―それも身内ーがいる。

ユーゴの場合、同じく劣等感を感じてはいたが、
兄が相手ならば仕方ない…年齢も上なのだしと、
心の中に逃げ場を密かに作っていた。

けれど、逆だったら？

相手が年下で、どう考えても言い訳しようのない
現実をつきつけられてしまったら……、

「……！！」

その瞬間、ユーゴは気づいた。

ああ……だから。

だから兄は、家を出たのだ。

たった今、自分が想像した感情に
囚われてしまう前に。

お互いを傷つけてしまわないように…

（そう……だったのか……）

そんな事も知らずに、自分は
兄の行動を自分勝手だと決めつけていた。

歪んだ劣等感のはけ口にするため、
ひたすら怒りの感情を募らせて。

何故、気づかなかったのだろう？

兄の性格は、弟である自分が
１番良く知っていたはずなのに。

（……ごめん）

瞳に熱いものが込み上げる。

トールの真意を理解して、
痛烈に思い知ったのだ。

（兄さんは……ずっと……）

自分がどれだけ大切に思われていたのか……

どれだけ愛されていたのか、という事を。