すな粉妄想日記

ドアを叩く音に気付いて、
ユーゴは顔を上げる。

（もう、そんな時間か…）

時計を見ると、針は１０時を指していた。

（相変わらず正確だな）

大きく溜め息をつくと、
ベッドから滑り降りて
ドアの方へと向かう。

扉越しに感じる、兄の気配。

声をかけて確かめるまでもない。

「開いてるよ、兄さん」

そう言うと、ノブがゆっくり回り、
静かにドアが開いた。

「ユーゴ…」

予想通り、安堵の表情を浮かべた
兄の姿がそこにあった。

ユーゴは無言で兄を促す。

トールは僅かにためらいつつ、
弟の後に続いた。

２人並んでベッドに腰を降ろす。

少しの沈黙の後、
兄がおずおずと口を開いた。

「今夜は…、父上の所には行かないのか」

「うん。昨日、相手をしたばかりだから」

まるで何でもない事のように
返事をする。

それを聞いた兄の表情が曇るのを、
ユーゴは見逃さなかった。

腕を伸ばして、
兄の手に自分の手を重ねる。

「兄さん」

トールが息を呑むのが分かった。

「…するんだろう？」

弟の言葉に、兄は何か苦いものを
飲み込んだような表情を見せる。

が、すぐに目を伏せると
ユーゴの手を取り、中指にそっと口付けた。