すな粉妄想日記

ダレスは黙ってユーゴに携帯を差し出した。

兄と話してやるよう、目で合図する。

「……！」

ユーゴはあからさまに拒絶の色を示したが、
渋々それを受け取った。

電話の向こうでは
トールがせわしなく叫んでいる。

「…弟と話をさせてくれ！！」

「………」

まるで誘拐犯と交渉しているかのような
必死さだ。

さすがにユーゴも、
少しばかり罪悪感を感じ始めた。

「おい、ダレス…！！」

「僕だよ」

仕方なくぼそりと返事をする。

「っ！！ユーゴか！？」

「………」

「その、……あの…だな、」

先程までの勢いはどこへやら、
いきなり口調がしどろもどろになった。

ユーゴは大きく溜め息をつき、
ダレスを見る。

相手は、話を聞いてやるようにと
軽く頷いた。

「……すまない。
さっきは、兄さんが悪かった」

しおらしい台詞が聞こえてくる。

「頼むから、帰って来てくれ」

拒否すれば泣き出してしまいそうな
兄の懇願だった。

愛妻に逃げられた夫さながらである。

……どこまで兄バカなんだ……

半ば呆れつつも
ユーゴは内心、嬉しく感じていた。

あまりそれを自覚したくは
なかったけれど……

「分かった」

「！！本当か！？」

トールの声が一気に
活力を取り戻す。

まだ何か言おうとしていたのを
阻止して、ユーゴは携帯を切った。