すな粉妄想日記

トールが忍び寄る眠気を自覚した時、
傍らの弟が声をかけてきた。

「あのさ…兄さん」

ユーゴは少しためらう様子を見せたが、
おずおずと口を開いた。

「今日はもう遅いし、明日で構わないんだけど…」

そこで少し間を空けると、
上目使いに兄を見る。

「…一緒に、寝てくれないか？」

「！！」

トールは思わず目を瞬かせた。

一瞬、我が耳を疑う。

２人が別々に眠るようになってから、
かなりの日にちが経っていた。

年頃のユーゴが嫌がったためだ。

仕方がないと思いつつ、
内心寂しくてたまらなかった。

もう以前のように、体を寄せ合って
眠る事はないだろうと諦めていたが…

「駄目かな」

沈黙を否定と受け取ったのか、
弟が不安そうに尋ねてくる。

「い、いや！！」

慌てて頭を振った後、
トールは間髪入れずに頷いた。

「全然、構わないぞ」

「本当？」

ユーゴの顔が途端に綻ぶ。

それを見たトールも
つられて笑顔を浮かべる。

心臓がはち切れんばかりに
高鳴っていた。

「じゃあ…明日な。お休み」

「うん。お休み」

嬉しそうに微笑むと、弟は
自分の寝室へと戻って行った。

（ああ…）

嬉しさのあまり、トールの眠気は
どこかへ吹っ飛んでしまった。

別に、今夜でも構わないのに…

このまま、弟の後を追って
その寝床へ潜り込んでしまいたい。

しかし、弟の気遣いを
無碍にする訳にもいかない。

ここは大人らしく、余裕を持たなくては…

湧き上がる欲求を必死で抑えた。

（とりあえず…寝るか）

眠ればすぐに、朝が来る。

始まってしまえば１日はあっという間だ。

トールは心踊らせながら、
自分の部屋へと向かった。

そんな彼は、明日が
何の日であるかを全く失念していた。