すな粉妄想日記

「……不毛だな」

「…………うん」

何をどう言ったところで、
相手の願望は止められない。

牽制しようとするのも
空しい努力だ。

それを悟った兄弟は、
顔を見合わせて仲良く苦笑した。

「諦めなよ、兄さん」

微妙に大人びた口調でユーゴが言う。

「諦めろって…何をだ！？」

弟の言葉に思わず叫び返す。

また良からぬ事を企んでいるのかと、
トールは肝を冷やした。

「まさかお前、また去年と同じような事を
考えてるんじゃないだろうな」

動揺がたちまち顔に表れる。

あの時の恥辱を思い出すと、
内心気が気でなかった。

「……だったら？」

「うっ……」

ユーゴは笑顔だったが、
目が笑っていない。

これは本気だ。

焦ったトールは、
弟を牽制にかかった。

「願い事は１日しかもたないんだぞ」

「知ってるよ」

「去年の事を忘れたのか？」

意外に動じない弟を前にして
自然、口調が強くなる。

「…俺をどうにかするつもりなら、
それ相応の報いを受ける覚悟があるんだろうな」

客観的に分析すれば、ユーゴの方が
どう考えても不利である。

望みを叶えたとしても、
それは結局自分に返っていくのだから。

「………」

弟の表情が僅かに曇った。

「…分かってるよ」

先程より若干、声が小さい。

ユーゴとて馬鹿ではない。

それ位の事は承知している。

しかしユーゴにしてみれば、
兄と立場が逆転すると言う
通常ならありえないチャンスなのだ。

奇跡でも起こらない限り、
兄はいつも優位に立っているのだから。

たとえ、１日だけでも優越感に浸りたかった。