すな粉妄想日記

トールの行動は、迅速だった。

怒りに任せたユーゴの攻撃を
難なくかわしたかと思うと、
次の瞬間には背後に回りこんでいた。

「く…！」

振り向いて体勢を整えようとしたが、
間に合わない。

（駄目だ…！！）

激痛を覚悟したその時、
全く違う感覚に包み込まれた。

「！？」

トールが腕を伸ばして、
背中からユーゴを抱きしめたのだ。

「…っ、」

一瞬何が起こったのか理解できず、
思わず息を呑んだ。

自由を奪われる程、
兄の拘束は強くはない。

本気になれば、どうにか
逃れる事はできそうだった。

けれども。

ユーゴはその感覚に、
心を奪われた。

いつ以来だろうか？

こうして抱きしめられた事なんて…

兄が家を出てからというもの、
抱きしめてくれる相手は誰もいなくなった。

温かな人のぬくもり、

力強い腕に抱かれる安堵感…

胸の奥が、じんと熱くなる。

「ユーゴ」

ユーゴの耳元に、
懐かしい声が響いた。