すな粉妄想日記

それから、何事もなかったかのように
数日が過ぎて行った。

不思議と夜、
父に呼びつけられる事もなかった。

きっと多忙なせいだろう。

何にせよ、それはトールにとって
ありがたい事だった。

しかし…

トールは眉を顰めて考える。

気がかりなのは、ユーゴだ。

あれからどこかいつも
沈んだ様子でいる。

声をかけると
顔を綻ばせるが、それが逆に痛々しい。

（…俺のせいだ）

抜き差しならない状況だったとはいえ、
あんな言葉を口走ってしまった。

やはり言うべきではなかったと、
心底後悔している。

罪に汚れるのは、自分だけで十分だ。

ユーゴには何も知らないままで
いてもらいたかった。

そもそも、父との関係を
知られなければこんな事には…

（……だが）

ユーゴの体は、汚さずに済んだ。

兄弟姦淫というおぞましい罪からは、
守る事ができた。

心の傷は深いだろうが、
これから時間をかけて癒していこう…

気持ちが少しは楽になった。

（まだ、何とかできる）

今まで通りとはいかなくとも、
仲の良い兄弟にきっと戻れる…

そう信じようと思った。

けれども。

トールには、知る由もなかった。

あの日の晩。

兄と父の関係を知ったその日から、

ユーゴがトールの代わりとして
父の相手を努め始めた事を。