すな粉妄想日記

今日もトールは疲労困憊して
家に戻った。

ファクト家の長男として、
厳しい訓練に耐える日々。

周りの人々は優秀だと
称えてくれるが……

父にとってはそうではないようだ。

厳格な指導、度重なる叱責。

褒めてもらった事は一度もない。

できて当然…無言でそう威圧している。

辛かった。

毎日毎日、神経を磨り減らして。

歯を食いしばって。

長男としての義務だからと、
自分を奮い立たせて。

時折、逃げ出したくなる。

自分を縛る全てのものから。

ファクト家という枷を外す事ができたら……

どれ程楽になれるだろう？

どれ程自由になれるだろう？

幾度、想像したかしれない。

けれども……

『兄さん』

その考えが頭に浮かぶ度に、
ユーゴの姿が脳裏をよぎる。

まだ幼い、愛らしい弟。

全身全霊で自分を愛してくれる、愛しい弟……

どんなに辛くても、
笑顔を目にするだけで癒されてしまう。

柔らかい体を抱きしめると
心の底から幸せだと思う。

（……ユーゴ……）

トールは重い体を引き摺りながら
扉を開けた。

小さな足音が聞こえてくる。

自分を呼ぶ可愛らしい声も。

途端に、疲れがどこかへ吹っ飛んでゆく。

（……幸せだ）

ブラコンで良かった。

そう思わずにはいられない、
ファクト家長男トールであった。