すな粉妄想日記

口にした瞬間、カインは速攻で後悔する。

冷や汗が額にじわりと浮かぶ。

表情を変えないようにするのが
精一杯だった。

「…………」

あまりの衝撃に、言葉すら出ない。

口の中は修羅場と化していた。

何をどうすればこうなるのか…

失望を通り越し、驚愕すら覚えた。

必死の努力で平静さを保ったまま、
視線を眼前に向ける。

料理が並んだテーブルの向こうには、
その提供者達が佇んでいた。

彼の息子達である。

２人揃って、瞳をきらきらと輝せていた。

何かを期待している。

そう。

父の反応を。

「………」

カインは、自分が厳格な父であった事を密かに喜んだ。

息子達にとって望ましい反応を
返さなくても、なんら不自然ではない。

ここで席を立つのは簡単な事だ。

『こんなものが食えるかっ！！』

某倶楽部の某主人よろしく、
テーブルを引っくり返して怒号を上げるのだ。

しかし…

視線が、痛い。

期待に満ちた眼差しが痛すぎる。

（……ぐぬぬぬ）

この料理を否定してしまえば、
取り返しのつかない禍根を
残してしまいそうな予感がした。

そうなると、今後の育成に支障をきたす。

息子達を従えておくためにも、
ここは耐えねばならない。

けれどもカインには、笑顔で
世辞を言う事など断じて不可能である。

と、なれば完食するしかない。

再びフォークを構え直し、
目前の料理に挑戦する。

せめてもう少し、人間の口に合う味であったら…

眉間に皺を増やしつつ、
カインはただ黙々と息子達の
手料理を食し続けるのだった。