すな粉妄想日記

弟は慌しく部屋を出て行った。

華奢な背中を見送って、
トールは軽い溜息をつく。

自然と口元が綻ぶ。

先程、自分に注がれる視線に気づいていたが
敢えて気づかないふりをしていた。

くすぐったい気持ちを抑えつつ、
平静を装いながら。

ユーゴがようやく目を反らしたのを
見計らって、声をかけたのだ。

結果、相手は逃げ出してしまったけれども。

思春期を迎えた弟は、
この頃めっきり反発するようになってきた。

話しかけるとむっとしたり、

どこか気難しい表情を浮かべたり、

時折じっと考え込む仕草をしたり…

幼子から、少年へ。

ユーゴは確実に成長しているのだ。

以前は、大好きと口にすれば
輝くような笑顔を見せてくれた。

そして、間をおかずに

『僕も…大好き』

と応えてくれたものだ。

今の弟には望むべくもない。

が、それを寂しく思うよりも、
弟の成長が楽しかった。

気持ちを素直に表現できず、
苦労しているのが分かる。

トール自身も経験があったから、
その感情は良く理解できた。

もどかしさのあまり、
必要以上に尖った態度を示す。

素っ気無い口調で好意を跳ねつける。

にもかかわらず、後で自己嫌悪に陥ったりするのだ。

トールは、そんなユーゴが愛しくてたまらなかった。