すな粉妄想日記

（…ここまで来れば…）

安全そうな場所を見つけ、
トールは大きく息をついた。

（ひとまず、大丈夫だろう）

肩の力を抜くと、疲労感が どっと襲って来た。

人１人を抱えながら 魔物をかわし続けて来たのだ。

しかし、弟は無事 守りきる事ができた。

安堵感が胸一杯に広がる。

それを感じた途端、 腕の中のぬくもりを強く意識した。

（ユーゴ…）

視線を下げて、その姿を確認する。

ユーゴは身を竦めてはいるものの、
もう震えてはいないようだ。

うっかり名前を呼びそうになるのを
押し留め、言葉を探る。

どう声をかければ良いのだろう。

素直に、大丈夫か…と言おうか。

それとも…

「………ぅ」

考えあぐねるトールの耳に、
か細い声が届いた。

「！」

胸の辺りを掴んだ小さな手に、力が込められて。

ユーゴがそろそろと顔を上げる。

その瞳は涙で潤んでいた。

２人の視線がぶつかり合う。

ユーゴは真っ直ぐな目で
見つめながら告げた。

「…ありがとう」

それは心からの、感謝の言葉。

「ありがとう…助けてくれて」

「…っ！！」

どくん、とトールの鼓動が脈打った。

過去の記憶が怒涛のように押し寄せる。

まだユーゴが幼い頃の、
幸せな思い出。

喜ぶ顔が見たくて、あれこれ世話を焼いた。

その度に…

『ありがとう、兄さん』

満面の笑みで抱きついてくる弟。

その笑顔が、たまらなく愛おしかった。

守りたい。

大切にしたい。

ユーゴにとって、良き兄でありたい…

幾度も幾度もそう思った。

だが、今の自分は……