すな粉妄想日記

「…帰ってたんだ」

居間で兄の姿を見たユーゴが、
少し驚いたように言った。

「ああ…仕事が早く片付いたからな」

弟の反応を気にしつつ、トールは答える。

「ごめん。すぐ食事作るから」

「いや、いい。済ませてきた」

「…そうなんだ」

どこかしら落ち着きがなく見えるのは
気のせいだろうか。

平静を装いながらも、トールの頭の中は
先程目にした出来事で一杯だった。

弟は女性と待ち合わせをしていたのだ。

あの後すぐ、２人は人ごみの中へ
消えて行った。

『………』

ショックのあまり追いかける気力もなかった。

呆然としたまま、トールは
足取り重く家へと向かった。

（どうして…）

相手の女性は、弟の先輩だった。

そしてまた…自分の友人でも。

（どうして、ユーゴがカデナと…！？）

意外な取り合わせである。

知らない女が相手よりは余程良いが…

あの、ユーゴの恥らうような表情。

兄である自分には決して見せない顔だ。

（ううう……）

トールは頭を抱えてうなだれる。

自分が取り残されたような
孤独感をひしひしと感じていたのだ。