すな粉妄想日記

鏡の前で、トールは困惑していた。

どういう事なんだ…これは。

見間違いかと思って目を凝らすが、
そこに映っているのは紛れもなく自分の姿。

衝撃の事実に、トールは頭を抱えて座り込んだ。

何故、どうして。

あれこれ考えるうち
ふと、夕べの出来事が脳裏に浮かんだ。

…まさか。

そんな筈が…

しかし、他に思い当たるものがない。

昨日は七夕。

年中行事を重視する父の意向で
今年も笹の飾り付けをし、短冊を吊るした。

自分も弟も、願い事が叶うという言い伝え？を
信じる時代はとっくに卒業したのだが…

それでも律儀に、兄らしい願望を綴った。

弟のが気になって尋ねてみると、

『…秘密だよ』

にべもなく拒絶されてしまった。

そう言われると余計に気になる。

まして、年頃の弟が何を望むのか？

これは兄として知っておかねばなるまい。

そんな大義名分の下。

弟がいなくなった後で
こっそり短冊を盗み見てしまった。

書かれていたのは…

（まさか…あれが、叶ったという事なのか？）

そう考えるより他に、
今の状況を説明できる要因はない。

トールは溜め息をつきながら顔を上げる。

目の前の鏡に映った少年も、全く同じ仕草をした。

弟よりもいくらか年下の少年。

それが自分の姿だとは…

トールの口から切ない呻きが漏れる。

「なんて願い事をしてくれたんだ…、ユーゴ」

庭の笹に吊り下げられた短冊は、
ひらひらと踊るように舞っていた。

そこに書かれていた願いは、
純粋で自然なものだった。

『早く兄さんを超えられますように』