すな粉妄想日記

そよぐ風を受けながら、
おもむろにトールが口を開いた。

「なあ…覚えてるか？」

瞳を閉じて、穏やかな口調で話し出す。

「俺が、騎士団に入った時の事さ」

「ああ。覚えているとも」

ガレオンも懐かしそうに返事をする。

それはもう、だいぶ前の事だ。

「どうしてファクト家の長男が騎士団に入るのか、
不思議に思ったぞ」

「まあ、そうだろうな。だが…」

トールはそこで真っ直ぐに友人を見る。

「お前は、俺の事を差別しないでくれた」

神官家の長であるファクト家の長男が、
後継者の座を捨てて騎士団に入る…

当然、何かあったと考えるのが普通だ。

多かれ少なかれ、好奇や非難の目に
晒されるだろうと覚悟していた。

「団長も、皆も…俺がファクトの人間だからといって、
態度を変えるような事はなかった」

今の空と同じ色をした碧い瞳が、
ガレオンの姿を映し出す。

「俺は…本当に、嬉しかった」

トールの表情が綻ぶ。

「自分の居場所は、ここだと思う事ができたんだ」