すな粉妄想日記

『その力は、何のためのものなの！？』

トバ家の娘―ユニカの言葉が
頭の中で繰り返される。

「何のため…か……」

自分に言い聞かせるように、
ユーゴは小さく呟いた。

するとそれを聞きつけたのか、
隣に佇んでいる相手が声をかけてくる。

「どうかしたのか？」

ユーゴの兄、トールが首を傾げてこちらを見ていた。

「ああ……」

軽く頷いて返事をする。

「力が、何のためにあるのかって事さ」

「ほう…？」

相手が驚いたような表情を浮かべる。

ユーゴは語り始めた。

「力っていうのは……」

この一連の出来事の中で、見つけた答えを。

「力そのものには…意味なんてないんだ」

力自体は、凶器のようなものだ。

大切な事は―それをどう使うかという事だ。

「だけど……僕は」

ユーゴはそれを理解していなかった。

力を手にする事自体が、目的になっていた。

しかも、極めて私的な理由のために。

『兄を越えたい』

何かにつけ比べられ続けてきた相手に、
どうしても勝ちたかった。

自分の方が上なのだと。

ファクトの後継者として優れているのだと。

そう周りの人間達にも、認めさせたかった。

なんと自分本位だった事だろう。

それに比べて。

「最初、僕はあんたが……」

一旦言葉を切り、ユーゴは若干躊躇する。

自分がどれだけ身勝手な考え方をしていたか、
思い出すだけで恥ずかしかったからだ。

けれども今を逃せばもう、相手に告げる機会はない。

正直な自分の気持ちを…

「兄さんが、力を求めて魔に堕ちたんだと思っていた」

ユーゴは相手の目を見据えて告げる。

「でも…そうじゃなかった」

全てを知って和解した時、兄には敵わない、
素直にそう思った。

自らの身を犠牲にしてでも
大切なものを守ろうとしていたその決意…

魔の力は、あくまでも手段に過ぎなかったのだ。

自分の承認欲求を満たすために
敵の甘言に乗ってしまった自分とは、
なんという違いだろう。

「やっぱり、兄さんには敵わないよ」

自然と笑みが零れる。

「僕は……誇らしく思う。
トール＝ファクトの弟である事を」

疎ましかった呼び名のはずなのに、
今は胸を張ってそう言える。

あれ程自分を苦しめていた劣等感はもう―感じない。

「ユーゴ……」

そんな弟を目の当たりにして、
トールは胸を熱くする。

弟は、成長したのだ。

自分の弱さという、目を背けたくなるような
事実さえ受け入れて。

嬉しさのあまり、思わず顔が綻ぶ。

その眼差しには昔の優しさが宿っていた。

トールはユーゴを見つめながら、誇らし気に告げる。

「さすが、俺の自慢の弟だ」

「！」

ぱっとユーゴの頬が赤くなった。

「……ま、全く……」

そして、年頃の少年らしい笑顔を浮かべる。

「今更…兄貴面するのか？」

「ああ。誰にも否定できない事実だろう？」

２人は顔を見合わせると、弾かれたように笑った。