すな粉妄想日記

兄、トールはユーゴの憧れと尊敬の対象だった。

ファクト家の後継者として、
申し分ない才能を備えていた。

優しくて、頼もしかった兄。

大好きだった、そんな兄が。

誇らしく思いこそすれ、
劣等感など感じる事はなかった。

それなのに…

どうして、

どうして、出て行ってしまったのか。

六神官の筆頭であるファクト家の
後継者という地位を捨てて。

周りの制止を振り切って。

…弟の自分を置いて。

何て自分勝手なんだと、
心の奥で憤っていた。

許せない、絶対に。

思い知らせてやる。

自分の方が、勝っているのだと。

そう心に決めていた筈なのに…

「ユーゴ」

耳元で囁かれる、静かな声。

優しい、けれど悲しそうな声。

「……」

僕は返事をしなかった。

今まで蓄積してきた感情が、
淡雪のように消えてゆく。

もう僕は…、兄を憎む事ができない。

兄が何を思い、何をしようとしていたのか。

それが判ってしまった今となっては。

憎み続けてきた事に、後悔すら覚えた。

知らず、涙が溢れる。

止めどなく流れて、頬を濡らしていく。

僕はまた…、何も知らないまま
置いて行かれるところだったのだ。

途方もない喪失感と孤独の中に、
独り取り残される…

あんな思いはもう、たくさんだ。

「……兄さん…」

僕は、ゆっくりと自分を抱きしめている
兄の背中に腕を回した。